今回は、ベッドルームで群論を(ブライアン・ヘイズ)を紹介したいと思います。
数年前に書店で見つけて、そのなんともおしゃれな装丁に魅かれてジャケ買いしてしまった、数学コラム集です。
内容
著者のブライアン・ヘイズは、アメリカの科学雑誌American Scientistにて記事や書評を執筆する記者です。
群論、万年時計、ランダムさ、命名法、遺伝学などに関する、数学コラム全12編をまとめたハードカバー本です。1コラムあたりの紙量は約20〜30ページ程度であり1編1編がかなりしっかりめに書かれているので、読み応えがあります。
感想
ユニークな視点で日常に潜む数学について論じていて、サブタイトルの通り数学的思考を存分に愉しめる一冊でした。どのコラムも趣向を凝らした内容で興味深く、著者は数学者ではなさそうですが科学コラムニストとしてのセンスを感じる内容だと感じました。ただしあまり科学に親しみ無い方ですと、読み切るのがちょっと苦しいかもしれません。私個人の感想としては軽い論文を読んでいるような気分になりました。
印象的だった内容について、私が感じたことを下にいくつかまとめてみました!
マットレス問題について
様々なコラムが一冊にまとめられているのですが、最も印象的だったコラムはやはりタイトルにもなっている第1編の”ベッドルームで群論を”でした。内容は以下のようなものです。
彼は日頃、一定期間ベッドを使用しているとマットレスのお尻が沈む箇所がへこんでしまうことを嫌って、マットレスの向きを変えたり裏返したりしていました。しかし前にどの向きで寝ていたかを忘れてしまうことが多く、彼はうまいやり方はないかと悩みます。長方形のマットレスの場合、裏を含めて4つの向きで使用することができますが、”ある一定の操作”を繰り返すことで全ての向きを順繰りに使用できる”マットレス返しの黄金律”はないものかと、考察してみるのでした。ここで登場するのが”群論”です。群論は代数学の分野に属する考え方で、これを使えばものの単位操作(ここではマットレスの返し方)を演算として扱って考察することができます。
考察の結果、、、残念ながら”マットレス返しの黄金律”は存在しないことがわかったのでした。残念!!笑
本書では良い結果は得られませんでしが、このように難しそうな数学の一分野も、身近な具合例に当てはめて考えると、とても面白く自分でも何か考察できる具体例はないものかと考えてしまいます。他にも様々な数学分野のコラムが収録されていて、新しい分野を勉強する入り口としては非常に良い一冊ではないかと感じました。
群論について
群論とは代数学の一分野で、その名の通り『群』を研究する数学分野です。と言われても『ん??じゃあ群ってなに?』って疑問に思いますよね。『群』はちょっと抽象的な概念なのでなかなか感覚を掴みづらいですが、簡単に言うとあるルール満たす集合のことを言います。定義としては以下に示す通りですが、このルールを満たす『群』についての性質を研究すると奥が深くて面白い!ということでこの分野が研究されているのです。
群の定義*1
以下の公理(ルールみたいな意味)を満たす集合Gを、群と呼ぶ。
・演算★に対して閉じている。
・任意の元に対して、結合法則が成り立つ。
・単位元が存在する。
・任意の元に対して、その元に対する逆元が存在する。
具体例を挙げると、ルービックキューブにも群論が潜んでいて、置換群と呼ばれる種類になります。*2このように群論は、モノに対して何か回転とか操作を加える場合の研究に有用で、私の専門とする物理化学の分野でも群論は登場します。
小中高の数学でこの群論が登場することはありませんが、こういった身近なものの研究に応用できる魅力的な分野が、習っていないだけでまだまだたくさんあるということを知ってもらえたらと思います。
ブライアンヘイズという筆者について
この本を読んで、ブライアンヘイズという著者に興味を持ち、他の著書も読んでみたいと思いました。
ただネットをパッと調べた限りでは日本語に訳されたものはこの一冊以外に見当たらず残念な結果に終わりました。もしご存知の方がいれば教えてください!
評価
ユニークな視点で何気ない事柄を科学的に深掘りしていて、科学系のブログを書く私にとっては非常に参考になる書籍でした!
295ページ
おすすめ度 ★★★★☆
装丁のおしゃれさ ★★★★★
マットレスを返したくなる度 ★★★★★
- 作者: ブライアン・ヘイズ,冨永星
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2010/09/11
- メディア: 単行本
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*1:数学ガール ポアンカレ予想p200参照